REBTの視点から「吃音」の苦しみを如何にして乗り越えられるのか? を考えてみる
吃音とはスムーズに言葉がでない事を言います。
今思うと私も小学校時代そうでした。
私は今は吃音の症状はありませんが、人前で緊張すると手足が震えるのは
相変わらずです。
「やわらかに生きる 論理療法と吃音を学ぶ(石隈利紀 伊藤伸二 共著)」
を参考にしながらREBTの視点から吃音の苦しみの
乗り越え方を考えていこうと思います。
Table of Contents
なぜ吃音は起こるのか
吃音の予防及び対処に関して現在も最大の影響をもつ人物、
それはウェンデル・ジョンソンです。
彼は診断起因説と言語関係図という2つの説を唱えました。
最初の診断起因説とは、親が子供を吃音と診断したことから起こるという説です。
言語発達途上の子供は「おおおおかあさん」というのはよく見られることです。
しかしこれに対して神経質になった母親が「どもりだ」と考え
「ゆっくり話しなさい」
と子供の話し方を吃音と思い込むことから吃音が始まるというのです。
この説を信じる人は今ではいなくなりましたが、
「母親がどもるをつくる」
という誤った認識を作りだし、吃音をオープンな環境で話せない土台を作って
しまいました。
二つ目の言語関係図とは吃音を視覚化できる言語関係図として表しました。
X軸(話し言葉の特徴)
Y軸(聞き手の反応)
Z軸(話し手の態度)
という三つの要素を各軸の長さで表し、
出来上がった箱の容積や大きさ、形がその人の吃音の問題の大きさや質を表す
というものです。
具体的にそれぞれの軸に対する解決策を考えてみましょう。
X軸は吃音者が楽に話すことです。
Y軸は聞き手、特に母親に良い聞き手になることを勧めます。
Z軸に関しては吃音者本人に吃音に対する態度を改める事を言います。
従来X軸、Y軸に関しては色々なアプローチが試みてこられましたが
Z軸に関しては有効なアプローチがありませんでした。
このZ軸へのアプローチにREBTが使えるのではと考えたのが
「やわらかに生きる 論理療法と吃音を学ぶ」の共著者である伊藤伸二氏です。
吃音におけるイラショナルビリーフ
伊藤氏個人の経験からご自身は「どもり」に関して3つのイラショナルビリーフがあったと述懐
しています。
どもりは悪いもの、劣ったもの
伊藤氏は小学校2年の秋の学芸会で『浦島太郎』の主役になれると信じていたのに
実際与えられた役はたった一つ「さよなら亀」というセリフをいう村人役一人でした。
なぜそのような役を彼は与えれたのでしょうか?
それはまさに「どもり」だったからなのです。
この挫折を機にmそれまで明るく、成績優秀な伊藤氏はおどおどした少年に変貌し、
周囲からもいじめられるようになってしまったのでした。
なんと残酷なことでしょうか?
伊藤氏は言います。
「どもるから人は悩むのではないのです。
どもり始めた子供が、自分の吃音に関して悩むことはほとんどありません。
人が吃音に悩み始めるには様々なきっかけがありますが、
他人から指摘を受けたり、笑われたり、からかわれたり、叱られたり、
酷く傷つく体験をしてからです。
(中略)どもりは悪いもの、劣ったものというイラショナルビリーフ
をもってしまった私は当然吃音を隠します。
どもらないためには話をやめるしかありません」
そして伊藤氏はどんどん消極的になってしまったのでした。
どもりであればダメな人生を送るに違いない
すっかり消極的になってしまった伊藤氏は人と話せない、友達もいない学生時代を過ごします。
彼は
「どもりのまま大人になったら、まともな仕事に就くことはできない」
と考えたといいます。
そこで
「どんなことがあっても、どもりを治したい。どもりであれば、ダメな人生を送るに違いない」
というイラショナルビリーフを持つにいたるのです。
どもりは必ず治るはずだ、治す方法は必ずあるはずだ
「どもりは必ず治るはずだ、治す方法は必ずあるはずだ」
このイラショナルビリーフほど、吃音に悩む人をさらに悩ますものはありません。
症状を軽くするには、自分の吃音を受け入れる必要があります。
しかし、治るといわれると吃音を受け入れられず悩んでしまうのです。
伊藤氏も当時を振り返り、
「今、ここで生きてどもっている私は、あくまでも仮の姿だ。
本当の人生は吃音が治ってからだ。普通の人のようにスラスラ
としゃべる自分が本来の姿なのだ」
と考えていたそうです。
伊藤氏はいかにして吃音を乗り越えたのか?
悩みに悩んだ伊藤氏は21歳の時、自身の吃音を治そうと民間の吃音矯正所にいきます。
しかし、いくら努力しても治りません。
そこで吃音矯正所の他
催眠療法、呼吸法、断食療法等少しでも治る他の民間療法も試すことになります。
ご自身も
「吃音は必ず治る。治す方法があるはずだ、のイラショナルビリーフは、人を底なし沼
のような吃音治療へと駆り立てていきます」
と述べています。
伊藤氏は治療法を探し求める中で、吃音に悩む多くの人に出合います。
そして、その出会いがセルフヘルプ・グループ「言友会」を作る事につながりました。
最初、伊藤氏はこの「言友会」での2年間にわたり民間治療法の実践を行います。
しかし、「言友会」の中でいかに一生懸命に大勢の仲間と発声法や呼吸練習法を行っても
効果が一向にでません。
そして、最終的に
「どもりは治らない」という結論に達したのでした。
一方、伊藤氏は「言友会」の活動を通して、どもりを持っていても立派な仕事に
ついている多くの人々と出会います。
その人たちとの出会いを通じて
どもりを治そうとすることは自分自身を苦しめてる事
そして
どもりであっても立派な人生を送ることができる事
に気づいたのでした。
伊藤氏の3つのイラショナルビリーフである
・どもりは悪いもの、劣ったもの
・どもりであればダメな人生を送るに違いない
・どもりは必ず治るはずだ、治す方法は必ずあるはずだ
を見事に自身の実際の経験で論駁した瞬間でした。
まとめ
REBTのABCモデルの通りに伊藤氏のケースをカウンセリングすると
伊藤氏がもっていた3つのイラショナルビリーフ
・どもりは悪いもの、劣ったもの
・どもりであればダメな人生を送るに違いない
・どもりは必ず治るはずだ、治す方法は必ずあるはずだ
を論理性、現実性、および功利性で論駁する事でしょう。
つまり、
・どもりは悪いもの、劣ったものというのは誰が決めたのか?
・どもりであるとダメな人生を送ると本当に言えるのか?
・どもりは悪いもの考えて場合、何かメリットがあるのか?
・どもりは本当に必ず治るといえるのか?
等など
しかし、いくか頭の中でイラショナルビリーフをラショナルビリーフ
に変えようとしても容易な事ではありません。
伊藤氏のようにイラショナルビリーフを実際の経験を通して気づく事は
とても力になることです。
自身のイラショナルビリーフを論駁するだけではなく、論駁の裏付けと
なる経験を積む事が重要だといえるのです。